本人があきらめていない限り、私たちもあきらめない──ある住人さんと紡いだ、命の物語

支援・介護現場エピソード
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忙しい方もぜひ最後までご覧ください!

支援の現場で、「本人の思い」をどこまで尊重できるのか悩んでいる方へ

介護・支援の仕事は、日々小さな選択の積み重ねです。
時に「これで良かったのか」と悩み、揺れることも少なくありません。

今回は、重度障害のある住人さんとの関わりの中で、
「本人の思いをどう守り、どう支えるか」という問いに直面したエピソードをお届けします。

☑本記事のテーマ

  • 支援現場で「本人の希望」をどう汲み取るか

  • 支援者ができること・できないことのリアル

☑この記事を書いている人

  • 重度障害者施設で日々現場に携わり、利用者さんやご家族と向き合い続ける支援者

  • 支援現場で起きる”揺れ”や”決断”を、仲間と共に乗り越えてきた経験あり

☑この記事を読むことで

  • 支援における「本人中心の考え方」と「諦めない支援」の大切さが、エピソードを通して伝わります

☑注意点

  • 本文中のエピソードは、個人が特定できないよう配慮しています

「本人が諦めていないのに、私たちが諦めて蓋をしてはいけない」

施設の嘱託医の先生が、私たちにかけてくださった言葉です。

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支援の現場で直面した「選択」

3月、入院していた50代前半の住人さんに、厳しい現実が突きつけられました。
経口摂取や胃ろう造設が困難とされ、点滴も抹消点滴のみ。
施設では長期の点滴対応が難しいため、提示された選択肢は二つ。

「療養型病院で点滴を行い、1~2ヶ月で最期を迎える」か、
「施設に戻り、1週間以内の看取りを受け入れる」か──。

つい2ヶ月前まで、普通に食事をしながら、
私が「忘年会、何をやりましょうかね」と声をかけると、
住人さんは「はい」とにこやかに応えてくれていました。
そんなやり取りがあったばかりだっただけに、
急激な変化に、私たちは戸惑いました。


そんな病状説明を、私はご本人不在の中、
ご家族の隣で聞かせていただきました。
本人の思いを尋ねられたとき、私は答えに迷いました。

なぜなら、面会のたびに私が「胃ろうを作れる病院を探したいですか」と尋ねると、
住人さんは毎回、力を振り絞るように「はい」と応えてくれていたからです。

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本人の思いをどう受け止めるか

しかし、重度障害を持つ方の転院は極めて困難です。
意思の明確な表明が難しい場合、病院側の受け入れも慎重になります。
ご家族も「本人の思いを尊重したい」と涙ながらに語っていましたが、
転院先を探すことの困難さに心を痛めていました。

私たちも、事業所としてできることに限界があり、
現実を前に無力感を抱えながらも、医師でも家族でもない自分が
一報を待つ本人に「何を伝えられるだろうか」


できたことは、本当にわずかでした。
「自分の無力さへのお詫び」と、「限られた生命についての説明」。

それでも、「はい」と答え、笑ってくれた住人さんの顔を、私は忘れません。

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小さな一歩がつないだ奇跡

施設に戻ると、そこには
本人の思いに私以上に寄り添い続けた看護師や職員たちがいました。

そして、これまでつながりのなかった病院への紹介状作成を、
嘱託医の先生が承諾してくださったのです。

「本人があきらめていないのに、私たちがあきらめて蓋をしてはいけない」

この言葉に支えられ、病院への相談を続けると──
難しいと思っていた転院に、思いがけず道が拓けました。

ご家族も、事業所のサポートを受けて安心し、転院に同意してくれました。
入院先の病院も、本人の意思を尊重し、責任者が自ら転院調整を進めてくださいました。


4月末。
住人さんは無事、転院を果たしました。
そして今、両病院が連携しながら、胃ろう造設に向けた準備を進めてくださっています。


支援者としての誇り

今回の経験を振り返ると、
「本人の思いをつなぎ続ける」という、支援者としての誇りを改めて感じます。

たった一本の細い糸を、
それぞれの職員が、手繰り寄せるように繋いできた物語。

誰か一人でもあきらめていたら、
この未来には辿り着けなかったかもしれません。


このかけがえのない時間を、信頼できる仲間たちと共に過ごせることに、心から感謝しています。

そしてこれからも──
本人があきらめない限り、私たちは絶対に、あきらめない。

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